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帰化した元ブラジル人が清算型遺贈の遺言書を残して亡くなった事例
事例の概要
都内の不動産業者さんからのご相談でした。
亡くなった方が所有していた都内のマンションの売却を依頼されているが、その相続登記が出来ないため売却も出来ない、とのことでした。
詳しい事情をお聞きすると、亡くなった方は、ブラジルで生まれ、大人になってから来日して日本に帰化した方で、その方が、
「私が死亡したらマンションを売って、そのお金を友達に遺贈する。」との遺言を残して亡くなったそうです。
この方にはお子さんも配偶者もいなかったため、相続人は全員ブラジル国籍の兄弟姉妹となるらしいとのことでした。
そして不動産業者さんが、いつも仕事をお願いしている司法書士に相談したところ、「うちでは出来ない。」と言われて、弊所にご連絡されたそうです。
遺言書の原本、その他資料は亡くなった方の知り合いで遺言執行者に指定された女性に会って確認してほしいとのことでした。
相談者 | 不動産業者、40代女性 |
被相続人 | 日本に帰化した元ブラジル人 |
相続人 | 被相続人の兄弟姉妹合計5名 被相続人の長兄の奥さんが日本人で、メールや電話等で連絡がつき、協力してくれるとのこと。 但し、被相続人は生前、一部の相続人と仲が悪かった模様。 |
相続財産 | 不動産(自宅マンション) |
何が問題だったか | ①「亡くなったら不動産を売却してお金を遺贈する。」という清算型遺贈と呼ばれる遺言を実現するための登記手続きが煩雑。 ②相続人の全員がブラジル人であるため、戸籍等で相続関係を証明できない。 ③仲が悪かった相続人が手続きに協力してくれるか。 |
どう解決したか | ①②清算型遺贈の登記手続きとは、遺言執行者からの単独申請により、法定相続登記をし、その後、買主と共同で売買(所有権移転登記)を行うという特殊なもの。 管轄法務局も扱ったことがない特殊なケースであったが、粘り強く説明して、手続きを認めてもらった。 ③宣誓供述書の作成をブラジル側相続人に依頼したところ、やはり仲が悪かった一部の相続人から協力を拒否された。 長兄の妻から説得や管轄法務局との協議により、特例として登記を行うことが出来た。 以上により、ご依頼から約1年半で、当該不動産を相続人の共有名義とし、さらに遺言執行者の権限でそれを第三者に売却することが出来た。 |
問題点と解決の詳細
清算型遺贈の登記手続き
本件のように「自分の死後、不動産を売却換金して、第三者に遺贈して欲しい。」という、清算型遺贈を実現するためには、以下の2つの登記手続きが必要となります。
①法定相続登記
少し違和感があるのですが、不動産は死者名義では売却できませんので、まずは遺言執行者の権限で、一旦、全相続人名義に法定相続をします。
これは相続人から委任を得ることなく相続登記を行うことができるという、先例上、認められている珍しい登記手続きです。
但し、相続人の全員が日本人であれば、戸籍から相続関係を証明して、相続人の協力を得る事無く登記が出来てしまうのですが、本件では相続人全員がブラジル人であったため、相続関係をどう証明するかが問題となりました。
本件でもこのような国際相続特有の問題点が生じました。
②所有権移転(売買)登記
幸いにも本物件は早めに買主が見つかったため、次に売買を原因として、買主名義に所有権を移転させることになります。
この時点での所有権登記名義人(名目上の売主)は、ブラジルの相続人の方たちです。
これもまた、違和感がある方法なのですが、やはり、遺言執行者の権限で、ブラジルの相続人の共有となっている本物件の所有権を買主に移転する登記手続きが先例上、認められています。
こちらの登記については、遺言執行者の印鑑証明書と遺言書正本を添付し、遺言執行者からの登記委任状を頂いて、登記申請ができますので国際相続特有の難しさはさほど感じませんでした。
相続関係の証明
本件では相続人は全員ブラジル国籍、さらに被相続人も日本に帰化するまではブラジル国籍であったため、関係者の戸籍というものは、ほとんどありません。
そこで、法務局に相談したところ、「相続人の全員から『本件の相続関係につき間違いはない』旨の宣誓供述書をもらってほしい。」という回答でした。
しかし、ブラジル側に宣誓供述書の作成手続きへの協力を依頼したところ、被相続人と仲が悪かった一部の相続人が頑なに協力を拒み、何度説明しても協力は出来ないとの返事でした。
そのため、再度、法務局に「日本人の場合であれば、相続人の協力の有無に関係なく、遺言執行者の申請による法定相続登記ができるのに、相続人がブラジル人というだけで、相続人の全員の協力が必要となるのは公平性を欠くのではないか?」と交渉し、かつ、妥協案として、「手続きに協力的な長兄が相続人を代表して、相続関係が間違いない旨の宣誓供述をし、さらに、遺言執行者である日本人女性も公証役場で同じ内容の宣誓供述を行う」方法をを提案しました。
自分でも「さすがに難しいだろうな。」と思いつつ提示した案だったのですが、意外にもあっさりと法務局に承諾されて拍子抜けしましたが、ともかく最大の難関がクリアでき、一安心しま
した。
そしてすぐにブラジルの長兄に連絡して宣誓供述書を作成してもらい、遺言執行者の方と一緒に公証役場に行って、宣誓供述書をしてもらいました。
宣誓供述書(AFFIDAVIT)
「宣誓供述書」とは、本人が陳述した内容を公証人が認証し、公文書化した書面の事です。今回はブラジルで認証する必要があるため、内容はポルトガル語で記載します。宣誓供述書に相続関係を証明する内容と相続手続きを委任する内容を記載して認証を受ければ、そのまま日本国内でブラジルの公文書として利用できます。また、不動産の登記を行う場合には、宣誓供述書の内容につき、予め法務局に確認を取ることが必要です。法務局の登記官には、それぞれ独自の判断が認められているため、事前に確認をしないと、登記が受理されず、宣誓供述書を作り直すことになるリスクもあるからです。最終的には、法務局に事前確認した日本語の内容を英文化し、相続人へ郵送して、公証人による認証を受けてもらうことになります。
実際に手続きした内容
●ブラジルの長兄から送られてきた「宣誓供述書」と、日本の公証役場で遺言執行者の方が作成した宣誓供述書を添付し、相続登記を行うことが出来ました。
●その後、買主の方へのマンションの売却を行い、所有権移転(売買)登記も済ませ、本件での業務は終了となりました。
まとめ
この事例においてのまとめは以下になります。もし同じ状況でお悩みであれば、ぜひ参考になさっていただければと思います。
●帰化した元外国人の方が遺言書を作成する場合、相続手続きが困難となる場合があるため、事前に国際相続の専門家に相談したほうが良い。
●相続人が海外在住の外国籍の方の場合、相続関係を証明するために「宣誓供述書」が必要。
●「宣誓供述書」は後々の使用目的に合わせて内容をアレンジする必要があるため、提出先に事前確認した上で文書を作成する必要がある。
●困難と思える手続きでも、根拠のある代案を示せば承認される場合もあるので、あきらめずに交渉してみることが大事。